戦争の英雄はラノベ系学園ハーレムみたいな青春を謳歌したい(仮)第一話

英雄はラブコメ青春送りたい(仮)

前話は下記のページからになります。

戦争の英雄はラノベ系学園ハーレムみたいな青春を謳歌したい(仮)プロローグ
数々の戦場で活躍した無名の英雄が夢見るのは、学園でのハーレムラブコメ生活!?異世界での青春と戦争のリアルが交わる、胸熱の物語がスタート!

前回のあらすじ

非正規部隊エクスペンタブルズが解散されることとなり、隊員ウェッジも戦場を去ることを余儀なくされる。

上官のビックスから「今後どうしたいのか」と進路を問われたウェッジは、「ラブコメのような青春を送りたい」と真剣に語り、ビックスを驚かせる。

戸惑いながらも、ビックスはその願いをどうにか叶えてやろうと決意。

こうして二人は戦場を後にし、久々に帝国へと帰還するのだった。

今回はその後、ビックスの取り計らいのおかげで、ウェッジが学園に赴任するところから始まります。

彼が夢見た“ラブコメのような青春”は果たして実現するのか?

兵士として過ごしてきたウェッジが、学園で何を経験し、どんな人間関係を築いていくのか――どうぞお楽しみください!

クラス養成学校バラム・ガーデン

 ガストラ帝国の皇都エリオルから程近い郊外に広がる帝国内学術特区「バラムガーデン」。
ここは、帝国が誇る学園都市であり、戦後の新たな時代に向け、未来を担う人材を育成する教育機関である。ここでは、戦闘・魔法・技術・行政など、帝国の発展を支える多様な分野の専門教育が行われている。

 校門を抜けると、星梢樹(せいしょうじゅ)が並ぶ並木道がまっすぐに続いている。春の風が新緑を揺らし、かすかな鈴音のような葉擦れの音が辺りに響く。その風に背中を押されるようにして、生徒たちは次々と足を進め、道の先へと視線を向けた。

 やがて視界に現れるのは、堂々たるバラムガーデンの校舎が見えてくる。その姿は、帝国の叡智の結晶そのものといえる。魔導工学と建築美術の粋を極めたその造りは、未来を担う若者たちに帝国の威光と希望を示しているかのようだ。精緻に設計された建築美が目を引き、無駄のない曲線と直線が織りなす均衡が、見る者に圧倒的な威厳と調和の美しさを感じさせる。

 荘厳なアーチの入口には、ガストラ帝国の歴代皇帝の中でも賢者として称えられたガストラ・バナン・サルディス・エレウシスの像が立ち、生徒たちを静かに迎え入れている。多くの帝国民から愛され、アウグストゥス(崇高なる者)の称号を与えられたこの皇帝は、帝国の知恵と未来を象徴する存在である。その静謐にして穏やかな眼差しは、学び舎に足を踏み入れる生徒たちの未来を常に見守り続けてきた。

 通路を進むと、静かな湖を思わせる幻想的なエントランスホールが広がる。エントランスホールは球体を思わせる形状で、その空間全体がまるで一つの芸術作品のようだった。天井の高みまで繊細な建築美が続き、床一面には浅く澄んだ水が張られている。その水面を跨ぐように優美な曲線を描く通路が浮かび、水面に反射した光がホール全体を柔らかな輝きで包み込んでいた。

 中央にはガラスのように透明で、宝石のような輝きを放つ大きな掲示板が立っている。その周囲には無数の生徒たちが集まり、賑やかな声が飛び交っている。掲示板には、新学年最初に行われた各クラスの生徒たちのレベルとステータス評価が映し出されていた。上級生も新入生もその結果に一喜一憂する様子が見て取れる。

 誰もが真剣な眼差しで掲示板に目を向け、自分の名前を探し出すと、そこに記された評価をじっと見つめている。それぞれの顔には様々な感情が浮かび、喜び、安堵、あるいは落胆の色が交差していた。

 そんな中、一人の少女が掲示板を睨むように見上げていた。ホールに入り込んできた風が、彼女の赤毛をそっと揺らす。アーシェ・バナルガン。彼女もまた、掲示板に映し出された自分の評価に視線を止めている。

――学生番号0689-1053。アーシェ・バナルガン。シード候補生、評価はA(-)――

 少女の赤く輝く勝気な瞳が、その文字の一点を鋭く射抜く。その奥には、隠しようのない苛立ちが宿っていた。不服を滲ませる視線は、今にも評価が映し出された掲示板ごと燃やし尽くしてしまいそうだ。

「A(-)って一体どういうことなのよ」

 その評価が何を意味するのか、アーシェには嫌というほど分かっていた。この(-)というのは、つまるところB以上であってA以下という非常に曖昧な評価だということだ。それが示すのは、「まだ足りない」という冷たい事実だ。それが彼女のプライドを深く傷つけた。

 掲示板に映し出された自分の評価を睨むように見つめながら、アーシェは自分の中に沸き上がる不満と悔しさを必死に押し込めようとしていた。悔しさから唇を引き結び、手のひらを強く握りしめる。

 周囲には、他のクラスの生徒たちの賑やかな声が満ちていた。掲示板の前で成績を見比べながら笑い合う声、肩を叩いて喜びを分かち合う声、あるいは評価を話題に冗談を飛ばす声。それら生徒達の一喜一憂とした騒がしい音が、アーシェの心を更に荒ませていく。

 抑え切れない感情が胸の奥で渦を巻き、ついにはアーシェは顔を上げて鋭い視線を周囲に向けた。その瞬間、遠くの方で同じクラスの生徒たちと目が合った。彼らは顔を見合わせると、あからさまな嘲笑を浮かべた。その中の一人、後ろに立つ男子生徒が意地の悪い笑みを浮かべ、これ見よがしに掲示板を指さしながら周囲に声をかけている。

 男子生徒の声は、周囲の賑やかな喧騒にかき消されていたが、その唇の動きだけで、アーシェには嫌というほど伝わってきた。

「ほら見ろよ、アーシェの評価。A(-)だってさ」

 周囲の生徒たちがくすくすと笑い声を漏らす。不思議と、そうした嘲笑だけは耳に痛いほど鮮明に聞こえてくる。アーシェの耳には、その笑い声が何倍にも増幅されて響いているようだった。

 クラスメイトたちが何を見て、何を笑っているのか。それは明らかだった。

 アーシェの頬が怒りで熱く染まっていく。拳を強く握りしめたが、悔しさで声を出すこともできなかった。彼女は滲む視線を掲示板からそらし、クラスメイトたちの視線を避けるように足早にその場を立ち去った。

 悔しさのあまり、目に熱い涙が浮かんでくる。だが、それを見せるわけにはいかない。

 無言のまま駆け足で通路を進みながら、アーシェは瞳に溜まった悔し涙を荒々しく制服の袖で拭う。ホールを足早で立ち去ろうとする彼女とすれ違う生徒達は、そんな彼女の姿を嘲るような目で見送った。

 無言のまま、アーシェは駆け足で通路を進んでいく。滲んだ涙が頬を伝い落ちる前に、彼女はそれを制服の袖で荒々しく拭った。胸の奥にくすぶる悔しさが、次第に怒りへと変わっていく。

 エントランスホールを離れようとするアーシェの横を、生徒たちがすれ違っていく。彼女をちらりと見て、何かを囁く者もいる。嘲笑の視線が背後にまとわりつくように感じられる中、遠くから聞こえるせせら笑う声が耳に刺さった。

 だが、彼女は立ち止まらないし、振り返りもしない。こんなことで躓いている暇などない。どんな悪意が降り注ごうと、揺らぐわけにはいかなかった。

 たとえ誰も助けてくれなくても。たとえどれほど孤独でも――それでも、彼女は進み続ける。

 全ては夢のために。

アーシェの過去

 アーシェ・バナルガン。彼女が生まれ育ったのは、ガストラ帝国の西方、隣国ガルバディア公国との国境に近い小さな町、コーリンゲンだった。

 豊かな資源も目立った産業もない田舎町だが、周囲を囲む国境の山脈が、長きにわたる戦火からその地を守り続けてきた。そこで流れるのは、穏やかでゆったりとした時間。戦時中ですら、その静けさを乱されることはなかった。

 しかし、帝国が戦争の終結を正式に宣言し、講和条約を締結した直後、予想外の事態が起きた。隣国ダマスカス王国が突如として山を越え、軍を進めてきたのだ。これは明らかな終戦条約違反だったが、ダマスカス側は「帝国がかつて不当に奪った領地を正当に取り戻すための行動」と主張し、侵略の意図を否定した。しかし、その動きは誰が見ても侵略以外の何物でもなかった。

 防備が薄かった西側国境線は、ダマスカス軍の侵攻を予期していなかった。簡単に越境して迫りくる敵の軍勢を前に、コーリンゲンの住民たちは恐怖に包まれ、パニックとなった。これまで穏やかで平和だった町の空気は一変し、叫び声と混乱に満ち溢れた。

 アーシェにとって、それは初めて味わうの「戦争」だった。町全体を覆う絶望、肌に突き刺さるような恐怖、押し寄せる怒り――幼い頃に味わったその戦争の記憶は、今なお彼女の心を深くえぐり続けている。

 だが、そのすべてを鮮明に覚えているわけではない。時の流れとともに、記憶は断片となり、薄れ、曖昧な影のようにぼやけていった。それでも、その中にどうしても忘れることのできない場面がある。空全体に轟き、大地を揺るがす一発の砲声。その一撃が、アーシェの幸せだった世界を粉々に打ち砕いた。目を刺すような閃光と共に、耳をつんざく轟音が周囲を飲み込み、次の瞬間、視界が暗転し、全てが音を失った。

 彼女の記憶に残るのは、ただその時に感じた誰かの腕の感触――強く抱きしめられた痛みと苦しさ。それは自分を守ろうとする必死の力であり、同時に、全てを拒絶するような冷たさでもあった。

 ゆっくりと目を開いた時、アーシェが目にしたのは、両親の死だった。

 両親はその身を犠牲にして、砲弾の爆発と爆風から幼い娘を守り抜いたのだ。

 地面に横たわる二人の姿を前に、アーシェは声を失い、ただその場に座り込んでいた。痛みや音も感じない。ただ、目の前にある残酷な現実だけが無情に彼女の心を蝕んでいく。

 あまりの深い絶望の中、この先に何が起きたのか、アーシェの記憶は不鮮明にしか思い出せない。今でもその時の記憶を辿ろうとすると、痛いほどの胸の動悸に襲われて思い出すことができない。それはきっと記憶を思い出すことを本能的に避けているのかもしれない。

 ただ一つ、彼女にははっきりと分かることがある――それは、突然の両親の死に狂いそうなほどの絶望を味わったこと。そして、その絶望を吹き飛ばすほどの「希望」が突然現れたことだ。

 まるで夢物語のような光景だった。津波のごとく押し寄せてくる敵の軍隊の前、阿鼻叫喚とした混乱の中、両親の死を受け入れられず、ただ泣き叫ぶことしかできなかった彼女の前に、突然、ヒーローが現れた。

 青白い白煙を纏いながら現れたその英雄は、まるで彼女を守るためだけにその場に降り立ったかのようだった。軽く微笑みながら剣を肩に担ぎ、敵軍に背を向けた彼は、振り返ることなくそのまま単身で突撃していった。

 剣を高く振り上げた瞬間、世界が震えるような轟音とともに、押し寄せる敵兵が次々と吹き飛ばされる。爆煙の中で煌めく剣と、その後ろに立つヒーローの姿だけが、アーシェの視界に焼き付いていた。

 その記憶はそこで途切れる。

 次に目を開いた時、彼女は救護所のベッドに横たわっていた。薄汚れた天幕越しに射し込む光、彼女を覗き込む看護師と医者の安心した表情。それが彼女が覚えている次の光景だった。

 夢の中の出来事だったのかもしれない――幼いアーシェはそう思うこともあった。だが、あの日の出来事は全て現実だ。突然降り注いだ戦火が、彼女の町と両親を奪い去った。そして、一人の英雄がそんな彼女を救った。

 それは夢でも幻でもなく、戦乱の残酷さと、その中に差し込む幸福な希望の光であり、そのすべてが紛れもない事実なのだ。

 あの日の記憶は、戦禍による粉塵と青白く輝く白煙に包まれて曖昧になってしまっていた。けれど、彼女は覚えている。あの剣を振るったヒーローが確かに実在していたことを――

 英雄の名前は、セフィロス。

 周辺の国々から敵意を向けられ、四面楚歌というガストラ帝国の滅亡を何度も救った救国の英雄だ。

 英雄の名前はセフィロス。

 その名を知らぬ者はいない。周辺の国々から敵意を向けられ、四面楚歌に陥ったガストラ帝国滅亡の危機を何度も救った救国の英雄。

 彼の戦績は数え切れないほどだが、その輝かしい記録の中に、侵攻してきたガルバディア公国軍をコーリンゲンの街で撃退した一件も残されている。

 それは――アーシェが夢のように思い返す記憶が、紛れもない現実であることの証明でもあった。

 きっとセフィロスにとって、あの日救った少女のことなど覚えてはいないだろう。無数の戦場を駆け抜け、無数の命を救った英雄にとって、アーシェはその中のたった一人にすぎないのだから。 

 だが、それでもアーシェにとっては構わなかった。

 彼女にとってセフィロスは、紛れもないヒーローだったからだ。

 どんなに絶望に沈もうとも、たった一筋の希望だけで人は立ち上がれる――そのことを教えてくれた存在。

 あの日から、彼女はずっと一つの夢を抱き続けていた。

 彼のように強く、揺るぎない存在になること。彼のように戦場で希望となり、誰かの命を救うこと――それは、あの日から彼女の生きる糧となり、進むべき道を照らす希望となった。

 その希望を胸に、彼女は今、この場所に立っている。

 どんな視線を向けられようとも、どんな言葉を投げかけられようとも、彼女の歩みを止めることはできない。

「私は負けない。絶対にシードになって見せる」

 誰に向けたわけでもないその言葉は、静かに彼女の中で反響した。

 階段を駆け上るアーシェの足音が、ガーデンの静けさに小さく響く。上から見下ろすように聳え立つ建物は、まるで彼女の覚悟を試すかのように重厚だ。しかし、アーシェは迷いなくその階段を一段一段駆け上がる。

 目指す教室の扉が見えてきた。その先にあるのは、今日も彼女を待ち受ける厳しい訓練、苛立ちを煽る視線、そして打ちのめされるような評価が待ち受けている。けれど、アーシェはそらすべてを覚悟の上でガーデンに入学した。その為に血のにじむような努力を重ねてきた。

 こんなことで立ち止まっている暇なんて彼女にはない。

 教室の扉の前に立つと、クラスメイト達の賑やかな声が聞こえてきた。扉を開ける前に、一瞬だけ立ち止まる。

 深く息を吸い込み、胸の奥にわずかに残る不安を押し殺す。そして、意を決したように力強く扉を押し 開けた。

 その瞬間、教室の喧噪が少しだけ静まり、いくつもの視線が彼女に向けられる。そこに込められた感情は決して一つではない――嘲笑、軽蔑、そして無関心。それらが絡み合い、じっとりとした重さを帯びてアーシェの心にのしかかる。

 けれど、彼女は怯むことなく、注がれる視線をまっすぐに受け止めた。

 あの日、全てを失ったあの日、戦災という理不尽に両親が奪われ、平穏とした世界が粉々に打ち壊された。それをただ黙ってみていることしかできなかった無力な自分が嫌で彼女はここにいる。この程度のことで臆するような弱い心なんて、とっくの前に捨てている。

 彼女を奮い立たせているのは、たった一つの決意と覚悟だ。

 英雄セフィロスのように、誰かを救えるような本物のヒーローになる。そのためならどんなことにでも耐えるという強い心だ。

(いつか必ず、あの人と同じ場所に立つために)

 あの日から心に誓った思いが、不思議と胸に勇気がこみあげてくる。アーシェは教室の中へと足を踏み出す。今日という日が、彼女の夢への一歩になると信じて。

 あとがき

バラムガーデンは、FF8のバラムガーデンが元ネタです。学園の内部も、FF8のバラムガーデンを意識しながら書いています。
他にも、アーシェのふるさとはFF6から。
どうにも名前を考えるのが苦手でして、ほとんどがスクウェア作品から取っています。
次回も見てもらえたら幸いでございます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました